「死者の書」


題名は怖いですが、折口信夫原作の、8世紀の日本を舞台にした小説を元に、人形アニメーション作家川本喜八郎が描いた、壮大な人形アニメーション絵巻です。


その試写会に行ってきました。会場には、川本監督が偶然いらしていて、この作品について、解説してくださいました。


川本監督は、1964年からチェコの有名な人形アニメ作家イージートルンカに弟子入りした、世界でも屈指の人形アニメ作家です。一番有名なのは、NHKでやっていた「三国志」でしょうか?とにかく、いま人形アニメといったら、川本さんの右に出る人はいないほどです。


川本さんは、「人形は人間のかわりとは違う。人形には、人形の世界がある」と教えられ、作品を描くときに、これはどの媒体にすればいいか、まず考え、『死者の書』は、人形で描くべきだと思い至ったそうです。


作品を見てみると、本当に『死者の書』の世界観がうまく表現されていました。少し無機質でいて、奇妙な不気味さがただよい、なおかつ衣擦れの音さえ感じられるような、なめらかな人形の動き。無実の罪で処刑された大津皇子の魂が、50年たって甦り、彼の思い人に似ているという藤原南家の郎女という女性が、仏にも似た大津皇子の死者の霊を敬い恐れ包み込むという、そら恐ろしくも、悲しい運命の物語です。


秀逸だったのは、風の動き。二次元セル(デジタル)アニメでも、風が吹くときの人の表現は難しいのに、川本さんは、実にみごとに風を表現しています。それは、その人形の心の動きのメタファーでもあると思いますが、これが実にうまい。


とにかく、世界の人形アニメーションの内でも、最高傑作の一つであることはまちがいないと思います。


2006年2月11日から、岩波ホール(実に30数年ぶりのアニメーション上映)にて、公開!