Marioレポート13


6.自身につきつけられたホンデュラス

 そして、私自身もついに盗難事件にあってしまいました。帰国用に確保しておいた現金800ドルを、全額盗まれてしまったのです。私が生活している孤児院の、私の部屋から持ち出されました。シスターたちからは、いついかなる時にも、必ず鍵を掛ける様にという注意を受けていました。それは、まるで子供たちを信用していない事の用に思えたので、全く不本意だったのですが、私は守っていました。
 しかし、実際にそれは起きました。現金がなくなっている事に気付いた夜、私は大変苦しみました。私の中では、犯人の目星はおおよそ付いていたからです。その子は、この孤児院の卒業生で、すでにここには暮らしておらず、1歳の子供を連れて、時々この孤児院に遊びに来ていた、20歳の母親でした。その日の午後、私が自分の部屋の近くで、彼女の子供の面倒を見ている最中に、スキをねらって盗んだ様です。
 その夜、彼女の事をシスターたちに告げるまで、本当に苦しみました。私の中の、彼女を疑いたくないという気持ちと、疑うまでもない事実がぶつかり合いました。しかし、それを知ったシスターたちの行動は、素早いものでした。すぐに車と運転手を手配すると、躊躇して翌朝まで待つ事を提案する私を一喝して、夜の街へ飛び出して行きました。
 「彼女は、今夜の内に全ての現金を物に代えてしまいます。今夜でなければ、取り戻せません」
 シスターたちが帰ってくるまで、私は大変苦しみました。沢山の事を考えました。
「これは、彼女が悪いのではない。この国が悪いのだ」
「彼女を赦してあげよう。責めてはいけない」