Marioレポート14

ドリス


6.自身につきつけられたホンデュラス(その2)
 私は、取り乱した気持ちをおさめる事が出来ませんでした。やがて、夜半過ぎになって、シスターたちは帰って来ました。そして、私は聖堂へ呼ばれました。院長の手には、私の現金800ドルがありました。彼女の家に院長たちが着いた時、初めは否定したそうですが、問い詰めて行き、ついに白状させたそうです。
 この事は、私に少なからぬショックとダメージを与えました。もし、銃を付き付けられて奪われたのであれば、まだ納得出来たでしょう。しかし、身内の様な子から、スキをねらって盗まれた事を、私はなかなか受け止める事が出来ませんでした。私は自分の気持ちを納得させようとして、シスターたちにこの様な質問をしました。
 「彼女はお金に困っているのでは?」
 「夫は、ちゃんと働けているのですか?」
 私のそんな様子を見ていた院長シスターは、私の目をしっかり見つめて、こう言いました。
 「マリオ、よく聞きなさい。決して彼女に対して、同情したり、お金を与えたりしてはいけません。彼女は、どろぼうなのです。私たちのミッションは、簡単ではありません」


 私は、ホンデュラスという国の現実と、自分の心の中の感じ方との格差を、色々な角度から一気に見せ付けられた様な気がしました。そしてそれは、私の身体の中に、むちで打ち込まれたかの様に入って行きました。それは、これからの私に与えられた、ひとつの宿題の様に感じました。
[写真:ドリス(15)。母とは死別し、父は行方不明。ふだんはクールな女の子]