トリストラム・シャンディ

映画 Tristram Shandy: a Cock and Bull Story
(2005年 英国) マイケル・ウィンターボトム監督。

18世紀の英国人作家・司教ローレンス・スターンの小説「トリストラムシャンディ」が映画化された!!vengavaleは、昔「トリストラム・シャンディ」研究をしていて、このテキストは何度も読み、はちゃめちゃな構造と構想が非常に気に入ってしまい、研究会の人たち3人と、「英国シャンディーツアー」をやってしまったという経験を持つ。

さて、期待半分、ひやかし半分で見たこの映画。予想に反してとっても面白かった!

ネタバレ覚悟で、ちょっと解説。
小説は、書き手のトリストラム(スターンの分身)が、自分のさえない人生の原因を探るべく、自分の誕生前からの父、母、叔父、叔父の重臣に纏わるエピソードを語っていく、というのが本筋。でも、1つのことを語るのには、ほかのことも語らないといけないし、脱線につぐ脱線が始まる。父Walterと叔父Tobyストップモーションをかけて、語り手が聞き手に語りかける、というシーンもある。(語り手トリストラムは、女性たち相手にサロンで、自分の話をする、という設定)

さて、これをいかに映像化するのか?映画の構造は、映画とメイキング、そして演じる俳優達の私生活(これも演技だけど)という3重構造で進む。トリストラムと父役のSteve Cooganが、(籍は入れていないが)彼女ジェニーが撮影現場に子供と尋ねてきて、アシスタント(この人もジェニー)と会う。これは劇中映画の中の父がトリストラム誕生を待つ父親の立場と一致。でも、アシスタントのジェニーとも、いい仲になってしまい、どのジェニーのことを話しているのかわからなくなってしまう。

一番面白いのはToby役のRob Brydon。小説中Tobyには未亡人の恋人Wadman夫人がいるのだが、最初の脚本にはWadmanはでてこない。でもひょんなことから、彼女を登場させることになり、その配役をなんと、Gillian Andersonに依頼する。Gillianは一発OK. しかも、実はRobは大の「X-File」ファンで、「スカリーとラブシーンができるなんて!」と大喜び。 これは、ホントにポストモダンな映画だ!

現実と虚構が入り混じって、監督、脚本家、俳優達の舞台裏も入り混じって、とにかく、小説の雰囲気がとってもよく表現されていた。

物語は誕生と命名式までしか進まないけれど、それも脱線につぐ脱線で、小説と同じ。結局書けば書くほど、時間がたって、自分の人生は語りきれないと悟るトリストラムよろしく、映画も観客も、やがて、「語りの不可能性」に気付いていく。

SteveとRobの掛け合いも、まるで配役通りWalterとTobyそっくり。とにかく、バカバカしくて笑える映画だった。