ベドウィンの神様


折田先生の逸話は、まだある。あの、秘密警察の親玉のような人の馬の出産を助けて以来、折田先生は、シリアでは誰もが一目置く人となった。でも、完全に自由に活動できるわけではない。F財団からの仕事以外、受けてはいけないという制限があった。もし他の仕事を請けたら、即、国外退去だったという。


 しかし、ある日、砂漠の民ベドウィンの人が折田先生のところへやってきた。羊3000頭が伝染病にかかって、死にそうなのだという。土下座して、折田先生の足に接吻してまで頼むベドウィンの姿に、「まあ、みつかっても仕方ない。引き受けるか」と折田先生は禁を破り、羊を見に行った。


 3000頭の羊を診て、即座に身体を洗う必要がある、と診断を下した先生。けれども、こんな砂漠の真ん中で、水なんかあるはずがない。


 でも、それを聞いたベドウィンたちは、砂を掘り、老人達が現れ、砂漠に耳を当てた。砂漠の下に流れる地下水脈を探るということらしい。しばらく耳を当てて、ここだ、というところを掘ってみると、水が、出た。


 折田先生は、3000頭の羊をその水で洗った。羊は回復し、3000頭の命は助かった。


 それから、折田先生は「ベドウィンの神」となった。3000頭の羊は、彼らにとっては命と同じくらい大事な財産だ。それを救ってくれたのだから、神とあがめても無理はない。折田先生の業績を讃え、砂漠の真ん中にドラム缶を丸く並べ、入った油で火をたき、大宴会が始まった。ベドウィンにとっては、大事なお客様を歓待するときにしかやらない、貴重な儀式らしいのである。そこで、羊を一頭殺し、客人へ振舞われる。一等の扱いなのだ。


 秘密警察の親玉と、大金持ちのベドウィンを味方につけた折田先生。武勇伝はまだまだ続く。


[vengavale 今日のいちおし](映画)「アラビアのロレンス
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先生の武勇伝を聞いていて、「アラビアのロレンス」を思い出した。映画は史実に基づくものだが、いかんせん、ロレンス(白)、砂漠の民(黒)、植民地政策(悪)、現地人(善)など、かなり政治性のある演出がなされているので、ちょっとなんだかな〜と思う映画。でも、なんとなく、イメージとしては、O先生はこんな感じかな、と思った。